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神戸地方裁判所 昭和53年(ワ)894号 判決 1979年8月10日

原告 モリト株式会社

右代表者代表取締役 西谷忠雄

右訴訟代理人弁護士 中坊公平

同 正木丈雄

同 谷澤忠彦

同 木村沢東

右訴訟復代理人弁護士 島田和俊

被告 株式会社キャロン

右代表者清算人 神農英一

被告 株式会社キャロン製靴

右代表者代表取締役 大澤和則

右両名訴訟代理人弁護士 羽柴修

同 永田徹

主文

被告らは原告に対し、各自金七二万一〇〇〇円及び内金四二万一〇〇〇円に対する昭和五三年三月三日から、内金三〇万円に対する昭和五三年九月一日から、いずれも完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、靴ひも、ホック等製靴材料の販売を業とする株式会社であり、被告株式会社キャロン(以下「被告キャロン」という。)は、ケミカルシューズその他履物の製造販売を業とし、被告株式会社キャロン製靴(以下「被告キャロン製靴」という。)はケミカルシューズの製造販売を業としている。

2  被告キャロンは、原告の同被告会社に対する製靴材料の売買代金の支払のために、別紙約束手形目録記載の約束手形二通を振り出し、原告はこれを所持している。

3  原告は、別紙約束手形目録記載(一)の約束手形を満期の日に支払場所に支払のため呈示したが、その支払を拒絶された。

4  被告キャロン製靴は、昭和五三年六月二六日に設立されたが、同被告会社は次の事実からして被告キャロンから営業譲渡を受け、その商号を続用しているものである。

(一) 被告キャロンの代表取締役神農英一と取締役大澤和則は、同被告会社が多額の負債を抱えて経営難に陥った昭和五三年四月初めころ株主総会の決議によることを理由に同被告会社を解散せしめ、被告キャロン製靴を設立した。

(二) 両会社の営業目的は、登記簿上の表示によっても次のとおりほぼ同一である。

被告キャロン

(1)ケミカルシューズその他履物の製造販売

(2)前項に附帯する一切の事業

被告キャロン製靴

(1)ケミカルシューズ製造販売業

(2)前号に附帯する一切の業務

(三) 両会社の役員の構成も代表者に交替があるだけで次のとおり同一である。

被告キャロン

代表取締役   神農英一

取締役     大澤和則

取締役     神農好美

監査役     神農富子

被告キャロン製靴

代表取締役   大澤和則

取締役     神農英一

取締役     神農好美

監査役     神農富子

(四) 両会社の本店所在地及びその本店として使用する建物並びに電話番号も同一である。

(五) 被告キャロンの営業用資産及び取引先関係はそのまま被告キャロン製靴に引き継がれ、被告キャロンの商標も被告キャロン製靴が続用している。

(六) 被告キャロンの従業員もそのまま被告キャロン製靴の従業員として引き継がれている。

(七) 一般顧客に対する被告キャロン製靴の設立通知広告においても、被告キャロンの営業関係等の一切をそのまま引き継ぐ旨の意思を表明している。

5  従って、被告キャロン製靴は商法二六条一項により、被告キャロンの営業によって生じた本件約束手形金債務について被告キャロンと不真正連帯の関係にあり、弁済義務を負っている。

6  よって、原告は被告ら各自に対し、本件約束手形金合計七二万一〇〇〇円並びに内金である別紙約束手形目録記載(一)の約束手形金四二万一〇〇〇円に対する満期の日である昭和五三年三月三日から完済まで手形法所定の年六分の割合による利息及び内金である同目録記載(二)の約束手形金三〇万円に対する本訴状送達の翌日である昭和五三年九月一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2、3の各事実は認める。

2  同4の事実のうち、被告キャロン製靴の設立年月日及び(一)、(二)、(三)、(四)の各事実は認め、その余の事実は否認する。

3  同5、6は争う。

三  被告キャロン製靴の抗弁

仮に、被告キャロン製靴が被告キャロンから営業譲渡を受け、その商号を続用しているものであるとしても、被告キャロン製靴は次の理由により本件約束手形金の弁済義務を負わない。

即ち、被告キャロン製靴は、被告キャロンの事実上の倒産によりその再建をめざして多くの債権者が協力して設立されたもので、その設立に際しては、被告キャロンの債権者らは新たに設立される会社即ち被告キャロン製靴とも取引を継続する、他方被告キャロン製靴は被告キャロンの債務を引き受けて債権者らに支払うとの合意がなされていたのであるが、原告は被告キャロンの代表者神農英一から右の事情説明を受け、被告キャロン製靴と取引を継続するなら本件約束手形金債務を被告キャロン製靴において引き受けるとの申出を受けながら、被告キャロン製靴との取引の継続を拒否したので、被告キャロン製靴は右債務の引受をしておらず、原告も被告キャロン製靴が債務引受をしていないことを知っていたのであるから、商法二六条一項の適用はない。

四  抗弁に対する認否

争う。被告キャロン製靴が本件約束手形債務の引受をしなかったという事実は不知。

被告キャロン製靴と被告キャロンとの間には、その法形式上の人格の相違にもかかわらず、実質上の同一性ないし連続性が認められるから、被告キャロン製靴の右主張は信義誠実の原則に照らして許されない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  被告キャロンに対する請求について

請求原因2、3の事実は当事者間に争いがなく、本訴状送達の翌日が昭和五三年九月一日であることは記録上明らかであるから、原告の被告キャロンに対する本訴請求は理由がある。

三  被告キャロン製靴に対する請求について

前認定の請求原因1、2の事実によれば、被告キャロンの本件約束手形金債務はその営業によって生じたものであることは明らかである。

そして、請求原因4のうち、被告キャロン製靴が昭和五三年六月二六日に設立されたこと及び(一)、(二)、(三)、(四)の各事実は当事者間に争いがない。また前認定の請求原因3の事実と《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

1  被告キャロンは昭和五三年三月三日不渡手形を出して事実上倒産したため、新会社を設立して事業をやり直すことにし、同年四月五日付の株主総会の決議を理由に同月八日解散の登記をした。

2  被告キャロン製靴を設立するについての資本金一〇〇万円は被告キャロンの在庫整理をしてその売掛金から捻出した。

3  被告キャロン製靴の代表取締役には、被告キャロンの代表取締役で事実上一人で経営していた神農英一が被告キャロンに対する銀行取引停止処分の都合上支障があるため、大澤和則が就任したが、神農英一は被告キャロン製靴の株式の殆どを所有して資金調達、企画、営業を担当しており、他の役員である神農好美は同人の実弟、神農富子は同人の妻である。

4  神農英一と大澤和則は連名で、昭和五三年四月発行の業界誌において、被告キャロンよりそのまま引き継いで被告キャロン製靴を設立発足させることになった旨の広告を出している。

5  被告キャロン製靴は、被告キャロンが使用していたアルファベットで「キャロン」と表わしている二種類の商標を、内一種類のものは他会社の登録商標との関係から片仮名で「ロンタム」と付加しているが、そのまま使用している。

6  被告キャロン製靴の取引先は、原告を除いて被告キャロンの取引先をそのまま引き継いでいる。什器、備品もそのまま引き継いでいる。

7  従業員も被告キャロンの倒産時に解雇してはおらず、そのまま被告キャロン製靴に引き継がれている。

8  神農英一は、被告キャロンが昭和五三年三月三日に銀行取引停止処分を受けると、直ちにキャロン製靴名義で営業をしている。

9  被告キャロン製靴は原告以外の被告キャロンの債権者に対してはその債務を全部支払っている。

以上認定の諸事実によれば、被告キャロン製靴はその設立されたころに被告キャロンから営業譲渡を受けたものと認めるのが相当である。そして、被告キャロン製靴の商号は営業譲渡人である被告キャロンの商号に「製靴」の字句を付加したものにすぎず、右認定の諸事実とりわけ両会社とも製靴業を営業目的としていることを考慮すると、本件は商法二六条一項にいう「商号を続用する場合」にあたると解するのが相当である。

最後に、被告キャロン製靴の抗弁について検討するに、前認定の諸事実からすると被告キャロン製靴と被告キャロンとの間には実質的に企業体としての同一性ないし連続性が明らかに認められるから、被告キャロン製靴の右抗弁の主張は信義則に照らして許されないというべきであり、採用できない。

従って、被告キャロン製靴は、商法二六条一項により原告に対し被告キャロンと不真正連帯の関係において本件約束手形金の支払義務を負っているものであり、本訴状送達の翌日が昭和五三年九月一日であることは記録上明らかであるから、原告の被告キャロン製靴に対する本訴請求は理由がある。

四  結論

よって、原告の本訴請求はいずれもこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中俊夫)

<以下省略>

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